2013年9月22日(日)、劇団・風雲かぼちゃの馬車の第14回本公演、「超能力裁判」を鑑賞しました。「歌って踊って人を斬る!」を標榜する風雲かぼちゃの馬車ですが、今回はいつもとは少し趣向を違えて、歌って踊って人を曲げて・・・殺して、裁きます!

会場は下北沢・シアター711。キャパシティが100に満たない、けして広くない劇場ですが、そのコンパクトさ故に役者たちの息吹と熱気を身近に感じながら舞台を堪能できる、個人的にはとても好ましい空間です。

今回の舞台「超能力裁判」は、その名の通りサイコ・・・ではなくサイキック・サスペンスと銘打った会話劇で、かぼちゃの馬車のウリである殺陣やアクションはない。場面設定はごく限られていて、登場人物の会話のやり取りの中で物語は展開していく。

サイコキネシス(念動力)を使う超能力者・坂本徹は、その能力を使ったマジック?ショーの興行で収入を得ている。ともに暮らす彼の恋人の麻生茉奈は、仕事上のパートナーでもある。冒頭は二人の恋愛の終わりを感じさせる倦怠感と、それでも未来を信じたいと願うかすかな切実さの漂う会話から始まる。彼の能力、仕事、結婚、将来のこと、ゆるやかに苦悩するさまを淡々と描写することで、二人の間に歪んだ感情が生まれつつあることを予感させる。

そしてふたりが暮らす部屋で、彼女が首の骨を折って死ぬ。現場にいて殺人の容疑で逮捕、起訴され被告となった坂本は、自分はスプーンを曲げようと念じただけと主張する。それでも自分の能力が彼女を死に到らしめたであろうことを自覚している。しかし殺意については認めず、曖昧な供述をしている。遺体の所見からは首を絞められたり、打撃を加えられたりした外的要因が認められない。
しかし被害者麻生茉奈が死ぬ間際の回想で、被害者自身が自分の首に手を当てて骨が折れるといった場面が出てくる。どうやら超能力者は彼ではなく、彼女の方だったという一ひねり加えた仕掛けらしい。

この難しい裁判に6名の裁判員(架空の設定なので実際の裁判員制度とは違うが、臨時召集され評議・判決までかかわるという設定から「裁判員」としておく)が集められる。それぞれにクセがありながらも市井に生きる一般的な市民だ。その中で裁判員たちを二分する意見の対立を生むのが、冷静というよりは冷淡な印象で時に激情的な、超能力を認めない杉村保と、ややお調子者で社交的な、超能力は存在すると主張する向井大輔。この二人の対立に翻弄される形で評議の場はかき乱される。そしてその混乱し続ける評議の場こそが今回の芝居の主たる舞台だ。

裁判長の室田、裁判官の城ケ崎と佐藤、裁判所職員(書記官?)の宝生、彼らは裁判を取り仕切る立場だが、室田は事なかれ主義で前例主義の典型的な保守的判事で、佐藤は組織の論理を優先し上司に盲従する。城ケ崎だけが真実を求め公平で公正な裁判を実現しようと腐心する。

裁判員6名と職業裁判官3名がそれぞれの思惑や信条、価値観を巡らせ戦わせる中で、評議の場を支配する空気が二転三転し物語は進んでいく。登場人物のキャラクターを立たせるためか、若干ステレオタイプな主張を感じる部分もあったが、対立する意見を統合させていく会話劇はいろいろ考えさせられて面白い。時々はさまれる裁判員同士の軽妙なかけ合いや被告人の回想シーン、食堂のおばちゃんや書記官の登場などがいいアクセントになって、全体の流れに心地よい緩急を与える。

後半、集められた裁判員6名のうち、最も超能力の存在に肯定的だった向井を除く5名が、実は何らかの超能力を持つ者であることが明かされる。それが裁判員それぞれの主張や思考プロセスに影響していると判明することで、いくつかの伏線が回収される。なかなか巧妙な仕掛けだ。

テンポ良く物語は進み、いよいよクライマックスの評決(判決)のときを迎える。果たしてどこにたどり着くのかを興味深く観ていると、ここで用意された結末は求刑通りの「有罪・極刑」。個人的には少し意外だった。選択肢はそう多くないので想定の中に含まれてはいるが、それでも意外と感じた。

想定される選択肢を挙げてみると「無罪」「有罪・量刑に言及なし」「有罪・懲役刑」「有罪・極刑」そしてあえて含みを多く残す「判決前に終幕」という選択もあるだろう。その中でこの結末が選択されたのは何故なのか、舞台のあとしばらく考えてみたが、どうもうまい着地点が見つからない。「最もインパクトのある結末を選んだだけで深い意味はないのでは」との意見もあった。それとも社会制度や正義に対する風刺のような隠された意味があるのだろうか。

観客に配られる小冊子の作者の挨拶文の中に次の一節がある。
「今から起きることは何かに対する批判ではなく、皮肉でもなく、ただの劇なのです。それをお忘れなきように」
このモヤモヤした胸のうちそのものが、作者の術中なのかもしれない。鑑賞後しばらく経って、そのモヤモヤも含めて面白かったと思っている。

キャストはいつもながら粒揃い、しかし多様な個性が散りばめられていた。裁判員たちのシリアスなぶつかり合いもコミカルなかけ合いも、テンポよくメリハリが利いていて飽きさせなかった。坂本徹役の高橋範行さんは、独特の存在感と透明感で印象に残った。職業裁判官を演じた眞野基範さん、菅本生さん、堀浩隆さんの3人の安定感はいつもながら見事だった。

 

いつものように歌って踊って人を斬る舞台も楽しいですが、ときにはこういう会話中心の芝居も面白いです。かぼちゃの馬車の芝居は観るたびに脚本の面白さを感じていましたが、その多彩さにも関心が深まりました。次回も期待です。

(吟遊詩人)

風雲かぼちゃの馬車
2005年12月、主宰、土井宏晃を中心として創立
感情に訴えかける作風で観客も暴風に巻き込み中
主宰・演出家:土井宏晃
劇作家:重信臣聡
http://fuuunkabocha.yokochou.com/