私にとって水戸芸術館コンサートホールATMが大きな意味があるのは、音楽評論家で昨年亡くなられた吉田秀和さんが館長をされていたからです。私はクラシック音楽を吉田秀和さんの著書を道じるべとして聴いてきましたので吉田さんの考えで運営されたこのホールで音楽を聞くことで彼にもう一歩近づける、という思いがあるのです。
水戸芸術館は1986年から設計が始まり1990年に開館します。吉田さんは当館の設計が終わった1988年に当時の水戸市長から館長就任の要請を受け、受諾するとここにふさわしい楽団を作るために小沢征爾さんに協力を要請し、できたのが水戸室内管弦楽団です。
演奏家と音楽施設との関係には強い結びつきがあります。前回のサントリーホールとカラヤンの関わりも興味深いものでした。世界的にみても良いコンサー トホールには特定の楽団が本拠地にしていたり、音楽家が関わっています。
この水戸のホールの音作 りに関してお二人の積極的な発言はみられませんが ここで行われる全ての音楽イベントは吉田秀和さんがOKを出すことで行われたのですから、吉田さんがここでどのように水戸室内管弦楽団などを聴いたのかに思いを巡らすのは楽しいことです。
ところで、このホールの音つくりは、サントリーホールなどたくさんの日本のホールを作った永田音響設計の作品です。
水戸芸術館全体の建築設計は、磯崎新アトリエが行っていますが、ホールの音をどのようにまとめたかは興味あるところです。
本記事は『ラジオ技術』2013年7月号に掲載されています。