ホール作りの分岐点としての東京文化会館
日本のコンサート・ホール作りは,東京文化会館ができたあと大きくて変わります.第二回に紹介したように,ウィーンのムジークフェラインザールが世界で最高の音,ということを明らかにしたのは,アメリカの音響学者のベラネクという人で,そのことを「音楽と音響と建築」という本で明らかにしました.アメリカで1962 年に出版されました.しかし東京文化会館ができたのは1961 年でまだそのようなことが明確になっていなかったのです.
このことはとても大きな意味があることです.それは,東京文化会館はムジークフェラインザールという呪縛にとらわれずに設計することができたということです.
東京文化会館以後,沢山のコンサート・ホールができました.そこでは時代と共に変わる音楽のニーズに対応して,聴衆と演奏家の出会いの形や音も変化しています.そのような意味合いも含め,ここで一時代を確立した東京文化会館の音を確認していきましょう.
ところで東京文化会館は,設計にいくつかの謎があります.このホールを作るに当たってリファレンスとしたコンサート・ホールはどこか,とか,このホールの形状はどのように決まったのかなど.そういった謎解きをしながらこのホールについて理解を深めて行きましょう.
本記事は『ラジオ技術』2013年4月号に掲載されています。