萩原光男氏の企画による今回の「大人の音楽講座」は、生演奏とベートーベンの第5番を使った聞き比べということで、2013年5月15日 18時30分より、ここアムトランスさんの視聴室にて演奏会が行われました。

第1部

ダブルリード楽器の魅力、音楽談義

オーボエ、ファゴット、ピアノ(録音)による生演奏

友成祐二 オーボエ
進藤牧人 ファゴット
吉田綾子 ピアノ(録音)

トリオ演奏ですが、ピアノパートは予めスタジオで録音されたCDを再生しながらの演奏でした。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト – Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)

ディヴェルティメント 第12番 変ホ長調 K. 252
Divertimento in E flat major, K. 252

I. Andante
トルコ行進曲のような「シチリアーノ」のリズムに乗せて

II. Menuetto
比較的ゆったりとしたリズムで優雅に踊られる宮廷舞踊

III. Polonaise
典型的なポロネーズ形式

IV. Presto assai

この曲は、モーツァルトがザルツブルク過ごしていた1776年に宮廷の食卓の音楽、ターフェルムジークとして作曲されました。
原曲はオーボエ2本、ホルン2本、ファゴット2本の管楽6重奏曲ですが、オーボエ、ファゴット、ピアノの編曲での演奏でした。

フランシス・プーランク – Francis Poulenc (1899-1963)

オーボエ、ファゴットとピアノのための三重奏曲
Trio for Oboe, Bassoon and Piano

II. Andante

1926年の作品で、彼が新しい音楽の方向性を模索しているころのものです。スペインのマヌエル・デ・ファリャ(三角帽子で有名)に捧げた曲です。彼はものすごく気に入ったといわれています。

曲はプーランクらしい不協和音を伴って「倦怠感」や「メランコリー」さがうまく表現されています。楽器編成は同じですが、まったく異なる音楽、和声、音色で、時代や国の違いを明確に聴くことが出来た演奏でした。

 

第2部

ベートーベン第5交響曲の聴き比べと演奏の新旧比較

「最近のクラシック音楽演奏を聞く」と題して、ベートーベンの第5交響曲を比較していきました。普段は同じ曲を聴き比べるような機会はありませんでしたので、聴き比べてみてその演奏の違いが明確になり、自分の嗜好も明確化されるようでした。

配布解説

演奏会当日に配布された、萩原光男氏による解説です。

ヘルベルトフォン カラヤン

カラヤンは、1908年にザルツブルグに生まれたギリシャ系のオーストリア人。1989年に亡くなっています。1955年にフルトベングラーの死後、ベルリンフィルハーモニーの音楽監督兼常任指揮者に就任しました。1982年にベルリンフィルハーモニーと録音したデジタル録音です。
彼は日本では楽壇の帝王、と呼ばれるくらいクラシック音楽界の主要ポストを独占して圧倒的な権力を誇りました。クラシック音楽に映像などの視覚的要素を取り入れるたりデジタル化に前向気に取り組むなど時代に要求される要素を積極的に取り入れてクラシック音楽の盛り上がりに貢献した人でした。サントリーホールの模範となった、カラヤンの本拠地ベルリンフィルハーモニーホールは、世界で最初のワインヤード型のコンサートホールであり、このホールの音もからの思考した新しい音でした。
彼はこの曲の録音は、これが4回目のものです。
カラヤンの演奏は、大編成のオーケストラで厚みのある音でレガートを多用して滑らかで包容力のある演奏です。
それまでの、フルトベングラーの演奏のように一つ一つのフレーズを噛み砕くように演奏するのではなく、テンポよく滑らかに疾走するように演奏する音楽には、当時としては新しい時代を感じさせるものがあったようで絶大な人気を獲得してその地位を確立しました。
今回のCDでも、包まれるような音に、彼のコンセプトである、聞く人との一体化、という優しさや滑らかさを感じます。

フルトベングラー

1886年生まれ1954年没、ベルリン生まれのドイツ人。ベルリンフィルハーモニーの常任指揮者を務め20世紀を代表する指揮者の一人とされている。ライバルのトスカニーニと対極をなす演奏で、現在も人気がありCDが続々と発売されている。トスカニーニの正確で速いテンポで統一したアンサンブルで演奏したのに対し、後期ドイツロマン派のスタイルを継承した演奏で、一音符一音符をおろそかにせず、休止やフレーズをとても大切にして表情をつけていることが特徴です。フレーズが、物語るか歌うか行進するか祈るかしている。そして見えにくい指揮棒はアインザッツ(休止後の演奏し始め)が乱れやすい、のでライバルの、統率の取れた演奏、とはかけ離れたものです。

ブルーノワルター

1876年生まれ1962年没、ベルリン生まれのユダヤ人。
20世紀を代表する指揮者で、フルトベングラー、トスカニーニ、とともに3大巨匠と呼ばれもした。モーツアルトやマーラーを得意としたが、ベートーベンなどにもたくさんの録音がある。ドイツではナチスの台頭と共に迫害を受け最終的にアメリカに亡命し演奏活動を行う。常任指揮者にはつかず、ニューヨークフィルハーモニーやメトロポリタン歌劇場で指揮をした。戦後は欧州でも活躍した。
ワルターの演奏は微笑に例えられ、夢のような幸福感に満ちた美しい演奏で、感情を荒々しく出すことのない中庸な演奏をするとされている。しかし、その演奏の中にはユダヤ人的な、歌う、表現に特徴があり節々に細かい配慮が感じられる。

クリスティアンティーレマン

1959年ベルリン生まれ。歌劇場で経験を積んで、2004年から2011年までミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽総監督をそれぞれ務めた。ウィーンフィル、ベルリンフィルも客演しコンサートとオペラ両面にて評価を得ている。カラヤンとも親交があった。レパートリーとしては、ベートーヴェンやドイツ・オーストリア系の古典派、ロマン派から20世紀初頭までの曲を得意としている。ドイツ人らしい骨格の明快な演奏。
今秋ウィーンフィルと来日し、ベートーベン運命を演奏することになっています。
ところで、今日の演奏では、オペラで鍛えられた人という感じでドラマティックに演奏され、一つ一つのフレーズが彼なりに考えられた演奏になっていると思いました。
低音部もきちんと演奏されていて、弦やティンパニーの響きがきちんと迫力のあるものになっていますね。
欧米の音楽を理解するうえでこのような、低音の表現にも着目して欲しいところです。

小澤征爾

1981年にボストン交響楽団とボストンシンフォニーホールで演奏したものを聞きましょう。
彼は,1973年にボストン交響楽団の音楽監督に就任してこの楽団をいわば経営してきました。その後30年に渡ってこの楽団の音楽監督をつとめるのです。
この録音は就任後、8年目のもので、小沢征爾の指揮の良さが十分でていると思います。録音が、世界で3指に数えられる音の良いホールで録音したこともあり、音が、透明で演奏も流れに素直で自然です。
小沢征爾は、シャルルミュンシュや、カラヤン、バーンスタインのもとで親しく指導を受けて、先ごろまではウィーン国立歌劇場の音楽監督をつとめ、ムジークフェラインザールのニューイヤーコンサートにも出演しています。
このCDのライナーノートには、「ドラマティックでスピード感あふれる演奏を得意として、綿密な解釈とナイーブで洗練された感覚美を持っている」と書いています。
ところで、彼は低音をどう表現しているでしょう、ここもポイントです。